巡陽紀1『銀色の大地と乙女の話』
2025/04/03 04:42
2025/04/04 02:35

むかし、むかし……、ずうっと昔。まだ、“世界の時の針”を動かす神様がいなかった頃のこと。
時間は、あるいは始まったばかりで、あるいは止まったままで、逆さに回ることもありました。だから、昨日は明日で、今日は昨日でした。日の巡りも、月の満ち欠けも何もなかった混沌の頃の話……。
この世界の地上は冷たく、暗く、ずうっと氷のような雪が降り続けていました。冷たい雪に覆われて、大地は一面が銀色をしていたと言います。
人々は、冷たく暗い世界の中で、多くの喜びを知ることはできませんでした。
彼らは少しだけの食べ物を欲しがって争い合い、暖を取るための炎を欲するあまりに家や村々を焼け失い、苦しみながら眠っていきました。
そんな世界の中に、一人の名もなき乙女が生まれました。
その乙女は、それは大層美しい姿をしていました。その肌も髪の色も、まるで雪と同じほどに眩しい色をしていて、銀雪の景色の中では見えなくなってしまうほどでした。
ある時、一人の男が銀色の乙女を見つけました。男の名は、クリストファーと言いました。
クリストファーは銀色の美しい乙女を、雪景色の中で見失ってしまわないように捕まえて、家の中に閉じ込めてしまいました。
クリストファーは、そこで美しい乙女を大事に大事に育みました。やがて、名前のなかったその乙女に、自分の名前と似た「クリスティーナ」という名前を与えました。
あなたが美しい大人になった日には、私達は夫婦になろう。そうクリストファーはクリスティーナに語りかけていました。
しかしクリストファーが大事に育てても育てても、クリスティーナの背丈はちっとも大きくなりませんでした。
彼は気付いていなかったのです。家の中にずうっと閉じ込めているせいで、クリスティーナの“命の時の針”が、動いていないことに。
そうしてただただ、止まったままの時だけが過ぎていきました。
この、銀色の冷たい雪に覆われていた時のことを、後世の私達は「銀色の時代」と呼んでいます。