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※文章中に残酷な表現があるので苦手な方はご注意ください。
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「待て……、待ってくれ! 頼む……!」
なおも懇願するギルバートに、もう私からかける言葉もなかった。ズミ王も無言のまま、静かに魔剣を鞘から抜く。ここは既に儀礼の空間だ。
血門を開くことはせず、魔力を流していないその生の刀身を構え……、そして一切躊躇のない所作で、彼はそれを振り切った。
初めて斬った首が元のあるじのものだなんて、なかなかに洒落た因縁の剣じゃないかと……皮肉を思いながらそれを見届けた。
ズミ王は刃についた血糊をぐっと軍服の袖で拭ってから、鞘に納め、同じように丁寧な所作で私に返してくる。
それを受け取って左手に持ち、私はそこに転がったギルバートの首から王冠だけを拾い上げた。
兵士達に言いつけて、玉座に残った胴体を引き下ろす。真紅の布で飾られた椅子には、吹き出た血がかかってもあまり見た目の違いは分からない。気にせずに私はそこに座り込み、奪い取った王冠をちょんと自分の頭に乗せた。
途端に玉座の間に詰めていた兵士達は一斉に鬨の声を上げる。皆が張り裂けるような声で私の名前を呼ぶ。イグノール陛下、と。何も示し合わせていないのに、ズミ王までがそれを感じ取って私に礼をした。
その喝采を浴びながら、しかし私はにこりともせずに……床に転がっているギルバートの首を見下ろしていた。
昔は憎いと思ったこともあったが、今となっては興味も持てなかった。だけど敵王である以上は討たねばならない、それだけの関係だ。死んだところで何か特別な感動を持つつもりもなかったのだが……。
しかし、ねえ叔父上、やっぱり言わせていただきたい。
……あまりに、あまりにも陳腐で、あまりにも呆気ない最期だ。こんなもののために私達は今まで戦ってきたというのですか? あなたのために死んでいった忠臣達の命はなんだったのですか? そんなもののためにドミニクも死んだと言うのですか? 彼らのために祈りの言葉ひとつも言えないのですか?
ねえ、それはあんまりでしょう。……もう少し、どうにかならなかったのですか。ああ、陳腐、反吐が出るほどに陳腐だ。
その悪心を今は噛み殺して、ただゆっくりと開いた口には、新たな王としての責務を吐く。
「すぐに市街中にギルバートの死を喧伝しろ。まだ頑張ってる近衛兵がいるだろうが全員捕らえろ、生死は問わない。最後まで奴に従っていた者は必ず皆殺しにする」
〟
(166話「最後の復讐」より)
パウルはぴばで~!
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