『懐中時計男』の設定資料

懐中時計男

投稿日: 2022/06/16 20:15

イラスト説明

さて、ジナット様との出逢いについての話は、この前しましたね。

その後、オードラン家にお仕えするようになった私は、
雑用や掃除、庭の手入れなど
一生懸命に働きましたよ。
そうそう、オードラン家の皆様は、植物がお好きで
お庭には美しい薔薇が咲き
旦那様特注の温室にも、さまざまな花が咲き乱れておりとても美しいお屋敷でした。

数年働いていると
旦那様が私の働きぶりを評価して下さり、
ジナット様のお世話係に任命頂きました。
ジナット様の必要な物の手配や
スケジュール管理などが主な仕事ですね。

ジナット様は、それは聡明で努力家なお方でした。
早いうちから読み書きを覚え
屋敷の書庫の本を熱心に読んでおられました。

特に魔法学がお好きなようで
家庭教師も驚くほどの上達ぶりでした。

全てが幸せな時間でございました。

しかし、ジナット様が12歳の頃悲劇が起こります。

旦那様と奥様が街へ馬車で買い物に出掛けた日のことです。
その日は、晴れていたのですが
夕方ごろ突然、落雷を伴う大雨になりました。

私やジナット様は、お屋敷で旦那様たちの帰りを待ち侘びていたのですが
旦那様たちは帰ってこられませんでした。
次の日の旦那様を探しに街まで向かった
私が見つけたのは、街のすぐ近くで
横転した馬車と旦那様奥様の亡き骸でございました。

葬儀の日
ジナット様は、粛々とお二人を弔われました。わずか12歳とは思えぬ気高さでございました。
その日の夜、
ジナット様は私に、旦那様の形見の懐中時計をくださいました。
ジナット様は「お父様の形見ですが、貴方に託します。これを見ると素敵な思い出ばかりが浮かんできて泣いてしまいそうです。
これからは、私が1人で生きて行かなければいけないのに」
とおっしゃりました。

私は、
「お嬢様、素敵な思い出を思い出してください。泣いても良いのです。
これからもお嬢様1人きりにはさせません。私は、いつでも貴方のお側に」

ずっと我慢していらっしゃったのでしょう。ジナット様は、堰を切ったよう涙を流して座り込みました。
私もジナット様の肩を抱き一緒に泣いてしまいました。
なんならジナット様よりも泣いてしまったかもしれません、、、お恥ずかしい。

続く

最終更新日時： 2022/06/16 20:17