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「勝ったの……?」
私は呆然として呟いた。誰かにかけた言葉ではなかった、だけど近くで舞い上がっている男の一人が勝手に返事をした。
「ああ、ズミ軍の勝利だ! トレンティア軍は司令官を失って全面降伏、サダナムを取り戻したんだ! 俺達の故郷を……その国土を全て! 侵略者達の手から……やっと、やっと!」
お互い顔も名前も知らない初対面の人間だが、今はお互いにそんなことはどうでもよかった。
勝ったのか、なんて言ったものの、私は自分がどこにいるのかも、分からないでいた……。
祖国の開放のため、侵略者への復讐のため……それはズミレジスタンスの合言葉のような信念だった。だけどそれが叶った景色を前にしても……まだ、実感が湧かないからだろうか、どこかひどく虚しい感覚に囚われていた。
本当に、心の底からそれを願っていたことなんて一度でもあったんだろうか、なんてそんな言葉すら浮かんでくる。
勝利の景色を見て、それでもなお漠然と虚しい……。
私は、何のために戦っていたんだろう。そんな疑問をなぜ今更抱いてしまうのか、それすらも、今の自分にはわけがわからなかった。ただ頬にこびりついた砂が、また熱いものに濡らされてどろどろと汚れていくのは感じた。
「あ……お前はサダナムの市民か。市街は酷い乱戦状態だったからな、きっと大変な目に遭ったんだろうな、つらかったな。だけどもう大丈夫だ、もう……ここは戦場にならない。俺達がズミを取り戻したんだからな!」
見知らぬ男はそう勝手に喋ってまた舞い上がっていた。
私は考えるのをやめて、ただ空を仰いで、泣いた。子どもの頃ですら上げたことのないような大声を上げて泣いた。
涙でぐずぐずと滲んでいく空の上に……、薄く、しかし鮮やかな七色の橋が掛かっていた。
私はもう自由だ。しかしそれは、あまりに自由すぎた。自由って、重たくて、切なくて、虚しいものなのね……ねえ、ラファエル……。
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(154話「夜明け」より引用)
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