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何事かと、次第に大きくなっていくざわめきの中、それは唐突に訪れた……、喧騒をからりと蹴り飛ばすかのような、力強くも軽快な蹄の音。
はっとして一同が注目した先、ラズミルの王宮の建物の脇から猛々しく現れたそれは、一頭の馬とその背に跨った騎士の姿だった。
手綱を片手で軽く握り、その上体もまるで風の中に遊ばせるようにゆったりと力を抜いて、そしてひと目見て誰だろうかと目を疑った……あまりにいつもと違う最たる容貌は、その空に靡かせた長い黒髪だ。
服装こそ男物の兵装を着込んでいたが、いつもは後頭部でびしりと纏め上げている黒髪を流している様は、まさに“女騎士”の二つ名が輝かんばかりに映えた、壮麗なルヴァークの姿があった。
なぜ騎乗して現れたのか……分からないが、いちいちそれを詮索する気も失せるほどに、その颯爽とした登場の仕方に観客は一斉に沸いた。
ルヴァークは手綱を持っていない方の手に既に短弓を握っていた。そしてモルズの合図を待つことさえなく、ゆるりと右手を手綱から離したかと思うと、馬を駆けさせるままにして素早く矢をつがえた。
あっと驚く間もない、馬上でびしりと背筋を伸ばし、ばしと力強い音を立てて矢が空を切っていく。
揺れる背の上で、一体どういう鍛え方をすればそんな技術が身につくのか……その矢は確かに的の中央にずしと突き立ったのだ。当然、大きな歓声がその場を包んだ。
「ちょ、ルヴァ……」
慌てたのはモルズだ、目を白黒とさせたままそれを見ていたが、既に湧き上がった歓声が彼女の猛進を止めはしなかった。
的の前を駆け抜けるようにして観客席の間近まで馬を進ませ、そして切れのいい掛け声と共に手綱を引いて軽やかにその場で馬を翻して見せる、その瞬間にももう一本矢をつがえ、的に対して斜めの角度からぱしりと曲射を射つ。
よく見ると彼女は両足で鐙をしかと踏み、少しだけ腰を鞍から浮かせているようだ。力強く揺れる馬上で動じることなく、まるで地面に立っているかのような静けささえ纏って、二本目、そして走ったままに三本目。
全てが見事に的へ吸い込まれるように突き立っていく。その見事な弓捌き、そして乗馬技術は見事というほかなく、僕も、隣にいたアザルも息をするのすら忘れる心地でその勇姿に見入っていた。
「か、かっこええ」
アザルの唖然とした声が、近くで見ていた一同の意見を端的に代弁していた。
ルヴァークは再び馬を返す、その振り向きざまに四本目の矢を放ち、最後は鐙の上にざっと立ち上がって真正面から的を射抜き、駆けさせた馬の手綱を片手で空に止めて、その場で跳ぶように地面へと降り立った。
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(134話「弓部門 VSティガル、ルヴァーク」より)
ルヴァークさんはぴばで~
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