© 2025 敬法 無断転載・AI学習禁止

コラボコメント

本編小説の挿絵っぽいシリーズ。


 じっくりと緊張が高まっていく中、その戦いは静かに幕を開ける。戦場は、毒々しいまで映る派手な花がこれでもかと飾られたいかがわしい一室だった。
 そのためだけに作られた狭い部屋で、男女がまぐわう大きなベッドの上に座っている貴公子の作り笑顔はいやに艶めかしい。
 その顔を見るのも数ヶ月ぶりだが、それは初めて合わす顔でもある。
「お久しぶり……いえ、始めまして、と言うべきでしょうか? イグノール殿」
 髪を隠すために被っていたフードを下ろして、ラファエル・ロードは滑らかな声で私を呼んでくる。
 ……笑顔を作るのも煩わしいが、それも戦士の礼儀というものか。私も口だけで笑ってやる。
「イグノール“殿下”だ、ロード・レイン・クラネルト」
 そして開口一番、重たい声で先制攻撃を仕掛ける。
 ロードは口元の笑みは崩さないまま、その目を一瞬にして凍りつかせた。まさか唐突に勝負を挑まれるとは思ってもみなかっただろうか。
 狭い室内の中、私はまだ立ったままで、ベッドに腰掛けている男に向かう。背中のすぐ後ろに壁があるものだからその距離は自然と詰まった。
 ロードはその攻撃をいなすように、仕方なさそうに笑いを零してきた。
「しばらくぶりの再会だと言うのに穏やかではありませんね。あなたが貴い身分でありながら強力な戦士であることは私もよく知っています。そのように威圧されては恐ろしくて何も考えられなくなってしまう」
 その防御の構えは搦め手で崩してやる。
「優しく抱きしめてほしいってか? この私に色仕掛けとは、かわいらしいクラネルト殿もいたものだ」
 地理を利用するのも戦いにおける重要な判断だ、元はと言えば機密性の確保のためにとった娼館という場所を、この際は有利に使ってやる。
 意表をついた一撃となっただろう、さすがのロードも顔を引きつらせた。怯んだところを逃さず追い打ちをかけてやる。
「私を誘うつもりなら甘い声で呼んでくれ? 初めて会った時のように、パウルと……」
 しっとりと情欲を装った顔を、彼を覗き込むように寄せて。彼は怒りの滲んだ顔で笑った。
「御冗談を……、イグノール殿下」
 そう言わせればこちらの一本だ。懐にしまっている奥の手を使わずに済んだことを喜ぼう。

(115話「弁舌の激戦」より)

背景練習に一枚。どっちが悪役なんだか分からんな。

最終更新日時: 2025/03/22 00:07

コラボキャラ

frame

4

frame

1


ログイン することでラヴできるようになります。
ログイン することでコメントできるようになります。

アーティスト

敬法 NEO

きょうほうって読みます。煩悩まみれの坊主です。

:34 :47 :36

-Artist Homepage

この作品のURL