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コラボコメント
アルド先生誕生日記念に本編小説の挿絵っぽいシリーズ。
〝
顔を見合わせたまま、お互いすぐに出てくる言葉がなくて変な沈黙が流れた。僕は腕を組んだり、解いたりして見せてから、やがて頭を掻いて言った。
「ああ……、ヨハンだ。えっと、ただいま」
アルドは目をまん丸にして僕を見つめていた。五年前の記憶はあまりはっきりしないが、前見たときよりその黒髪に混じる白い毛が増えた気がする。丁寧に切った口ひげの形は変わってなさそう。背が低くなったように思うのは僕が高くなったからかもしれない。少し痩せた? 分からない。全体的に見ればそんなに変わっていないかもしれない。
だけど当然、彼から見た僕は様変わりしているだろう。やがて彼は飛び退くように体を引かせて、大仰に叫んだ。
「でっか!」
五年も経ったのだ、当然子どもはでかくもなる。僕は呆れてその顔を真正面から見た。背の高さは……、ほとんど同じのようだ。アルドはすぐに姿勢をすんと戻して、また僕の顔を見つめた。
やがてだんだんと、その顔にくしゃりと皺が深まる。それは笑顔、だけど、面白くて笑ってるような笑顔じゃない。なにか酸っぱいものでも噛んだように、目を細めて、頬は上がっているのに唇を噛んだ、変な笑顔。そしてぐっと足を前に出したかと思えば、大きくなった僕の体をその両腕に抱き竦めた。
「生きていてくれてよかった。おかえり、ヨハン」
その体の感触、温かさ、包み込むような柔らかい声。全部が確かに感覚へと焼き付いていく。……夢じゃないんだ。そう漠然と思った。そこにあるのは紛れもない親の姿。
その時僕は武器を握る感触も、研ぎ澄まされた戦場の感覚も、耳に何度もこびりついた人間の断末魔も、その手を汚した血の色も忘れて、ただ無邪気な子どもへと成り下がる。
自分と背丈の変わらない初老の男の背中を、僕もぐっと力を入れて抱きしめた。その腕に強く込めた力はもう子どものものではない。少しアルドは苦しかったかもしれない。だけどどうしても力が入ってしまう。爪を食い込ませた彼の服の感触が、その拳を宥めているようだった。
顔は彼の肩の上に預けて、うつ伏せて、震える瞼をそこに押し付けた。掴みかかるような僕の手つきとは違って、彼が僕の背に回した手は穏やかにそこを撫でる。
……温かい、どこまでも温かいその熱に溶かされたみたいだ。僕の頭の中にあった錆びついた記憶がどろりと流れ出して、やがてこの忌まわしい青い瞳がそれを吐き出していった。
〟
(53話「ミュロス・サーシェ」より引用)
親子の再会シーン。先生はぴばで!
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顔を見合わせたまま、お互いすぐに出てくる言葉がなくて変な沈黙が流れた。僕は腕を組んだり、解いたりして見せてから、やがて頭を掻いて言った。
「ああ……、ヨハンだ。えっと、ただいま」
アルドは目をまん丸にして僕を見つめていた。五年前の記憶はあまりはっきりしないが、前見たときよりその黒髪に混じる白い毛が増えた気がする。丁寧に切った口ひげの形は変わってなさそう。背が低くなったように思うのは僕が高くなったからかもしれない。少し痩せた? 分からない。全体的に見ればそんなに変わっていないかもしれない。
だけど当然、彼から見た僕は様変わりしているだろう。やがて彼は飛び退くように体を引かせて、大仰に叫んだ。
「でっか!」
五年も経ったのだ、当然子どもはでかくもなる。僕は呆れてその顔を真正面から見た。背の高さは……、ほとんど同じのようだ。アルドはすぐに姿勢をすんと戻して、また僕の顔を見つめた。
やがてだんだんと、その顔にくしゃりと皺が深まる。それは笑顔、だけど、面白くて笑ってるような笑顔じゃない。なにか酸っぱいものでも噛んだように、目を細めて、頬は上がっているのに唇を噛んだ、変な笑顔。そしてぐっと足を前に出したかと思えば、大きくなった僕の体をその両腕に抱き竦めた。
「生きていてくれてよかった。おかえり、ヨハン」
その体の感触、温かさ、包み込むような柔らかい声。全部が確かに感覚へと焼き付いていく。……夢じゃないんだ。そう漠然と思った。そこにあるのは紛れもない親の姿。
その時僕は武器を握る感触も、研ぎ澄まされた戦場の感覚も、耳に何度もこびりついた人間の断末魔も、その手を汚した血の色も忘れて、ただ無邪気な子どもへと成り下がる。
自分と背丈の変わらない初老の男の背中を、僕もぐっと力を入れて抱きしめた。その腕に強く込めた力はもう子どものものではない。少しアルドは苦しかったかもしれない。だけどどうしても力が入ってしまう。爪を食い込ませた彼の服の感触が、その拳を宥めているようだった。
顔は彼の肩の上に預けて、うつ伏せて、震える瞼をそこに押し付けた。掴みかかるような僕の手つきとは違って、彼が僕の背に回した手は穏やかにそこを撫でる。
……温かい、どこまでも温かいその熱に溶かされたみたいだ。僕の頭の中にあった錆びついた記憶がどろりと流れ出して、やがてこの忌まわしい青い瞳がそれを吐き出していった。
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(53話「ミュロス・サーシェ」より引用)
親子の再会シーン。先生はぴばで!
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