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コラボコメント
本編小説の挿絵っぽいシリーズ。
〝
「じゃあ俺はここで休むんで、よく眠れるように子守唄でも歌ってもらおうか」
冗談めかして言いながら、私もごろりとベッドの上に寝そべった。ベッド同士はほとんどくっつけて置かれている、位置で言えばリョドルのすぐ隣だ。
「しょうがない奴だな。ほら、膝枕してやろうか」
彼女も負けじと悪ふざけを言って、布団から起き上がって畳んだ太ももを叩いている。
私はふっと暗い笑みをひとつ浮かべて、その膝の上に頭を投げ出した。本当に乗ってくるとは思わなかったのだろう、うわ、と間抜けな声を上げてリョドルはよろめいた。
痩せた男の太ももは肉も薄く、あまり寝心地は良くないが、それでも人肌の温かさだけでどこか安らかな気分にもなった。
そのまま目を瞑っても、リョドルは本当に仕方なさそうなため息をつくだけで私を振り落とそうとはしない。
「ほんとにしょうがない男だな。……ねえパウル?」
「うるさいな、俺は疲れたんだ、とりあえず寝させろ」
そうぼやくように返した声はほとんど眠気で掠れていた。一度目を瞑ると本当に眠い、どっと波のように眠気が押し寄せてくる。
やがて下ろしたままの髪をリョドルの指が弄ってくるのを感じたが、もう意識を向ける気にもならなかった。
瞼の裏ではまだ、ドミニクの最期の姿がちらついていた。十五年ぶりに会ったかと思えば最期の別れなんてあんまりだ。
彼は幼い頃から私に武芸を教えてくれた師であり、いつでも力強く私達を導いてくれた先達の一人だった。実の親子であるジャックや夫婦であったグロリアとは比べ物にはならないだろう、それでもその最期にはどうしようもなくわだかまった感情を抱いてしまう。
それぞれが、その耐え難い別れを胸に刻んで苦しみ、それでも飲み込んでいくしかない、今日はそんな日なのだ。
迷いを見せるわけにはいかない、それでもどうしようもなく痛む心をきっと誰もが、ひっそりと涙を流す夜で覆い隠して行かなければならないのだろう。
その時に縋り合って慰めてくれる誰かを求めてしまう、そんな弱い存在であることからも私達はきっと逃れられない。これからはきっと、これまで以上に。
〟
(127話「騎士の最期」より引用)
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「じゃあ俺はここで休むんで、よく眠れるように子守唄でも歌ってもらおうか」
冗談めかして言いながら、私もごろりとベッドの上に寝そべった。ベッド同士はほとんどくっつけて置かれている、位置で言えばリョドルのすぐ隣だ。
「しょうがない奴だな。ほら、膝枕してやろうか」
彼女も負けじと悪ふざけを言って、布団から起き上がって畳んだ太ももを叩いている。
私はふっと暗い笑みをひとつ浮かべて、その膝の上に頭を投げ出した。本当に乗ってくるとは思わなかったのだろう、うわ、と間抜けな声を上げてリョドルはよろめいた。
痩せた男の太ももは肉も薄く、あまり寝心地は良くないが、それでも人肌の温かさだけでどこか安らかな気分にもなった。
そのまま目を瞑っても、リョドルは本当に仕方なさそうなため息をつくだけで私を振り落とそうとはしない。
「ほんとにしょうがない男だな。……ねえパウル?」
「うるさいな、俺は疲れたんだ、とりあえず寝させろ」
そうぼやくように返した声はほとんど眠気で掠れていた。一度目を瞑ると本当に眠い、どっと波のように眠気が押し寄せてくる。
やがて下ろしたままの髪をリョドルの指が弄ってくるのを感じたが、もう意識を向ける気にもならなかった。
瞼の裏ではまだ、ドミニクの最期の姿がちらついていた。十五年ぶりに会ったかと思えば最期の別れなんてあんまりだ。
彼は幼い頃から私に武芸を教えてくれた師であり、いつでも力強く私達を導いてくれた先達の一人だった。実の親子であるジャックや夫婦であったグロリアとは比べ物にはならないだろう、それでもその最期にはどうしようもなくわだかまった感情を抱いてしまう。
それぞれが、その耐え難い別れを胸に刻んで苦しみ、それでも飲み込んでいくしかない、今日はそんな日なのだ。
迷いを見せるわけにはいかない、それでもどうしようもなく痛む心をきっと誰もが、ひっそりと涙を流す夜で覆い隠して行かなければならないのだろう。
その時に縋り合って慰めてくれる誰かを求めてしまう、そんな弱い存在であることからも私達はきっと逃れられない。これからはきっと、これまで以上に。
〟
(127話「騎士の最期」より引用)
最終更新日時: 2025/03/12 19:05
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