『闇夜の射手・天狼』の設定資料

天狼と弓&過去話
投稿日: 2022/08/28 14:09

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イラスト説明

(以下、やや閲覧注意)

 この場所では心を殺さねばならない。余計な感情があっては、射るべき的も射抜けなくなる。
——1人、2人……7人、8人、9人。
 狩人が見ているとも知らず、同胞を助けるとは。なんて優しい人なんだ。ただ、同時に愚かだ。目と鼻の先に敵がいると言うのに、その場に留まり、同胞の死を嘆いている。
 全く以て、甘んじた行為だ。この場所では、もっと視野を拡げるべきだろう。
——10人。
 嘆きの声が止み、静寂が訪れる。
 僅かな休息に安堵し、息を深く吐いた瞬間。下方から私を呼ぶ声が聞こえ、視線を下ろして見れば、私を慕ってくれている後輩がそこに居た。息を切らし、誰のかも分からない鮮血に染まりながら。

「これどうぞ。えっと、そろそろ矢を切らしているんじゃないかなって思って」

 胸に抱えていた物資を差し出して、後輩は言う。恐る恐る、と言った感じで私の反応を待っている。そんな後輩を横目に、樹の幹を伝い降り、受け取った物資を確認。ざっと20本はありそうだ。これだけあれば事足りるだろう。

「あと数本しか残っていなかったから、君が来てくれて助かった。ありがとう」
「お役に立てて、良かったです。……じゃあ、自分はもう いきますね」
「あぁ。くれぐれも周囲には気を付けて——」

 言い終わる前、後輩は逃げるようにして持ち場に戻って行く。話は最後まで聞くべきだろうに、そう思いながら、定位置へ。


***
 後輩が去ってから、しばらく経った頃。弓矢を構えて次なる獲物を定めていると、視界の端に銃弾が映り込む。刹那で避けるも、鼻背部を掠めていった。
 銃声は聞こえなかった。おそらくサプレッサーを使用したのだろう。だが、おおよその場所の特定は出来ている。銃弾が流れてきた方向へ、引き絞っていた矢を放つ。しかし手応えはなく、やや右側へ狙いを定め、再度矢を放つ。茂みが大きく揺れたのち、周囲に木霊する悲鳴。
 樹木から飛び降り、早急にその茂みへ。その中、苦痛の表情で息絶えていたのは——。

「ッ……なんで、なぜ君がッ!」

 紛れもない後輩。無残にも、矢は胸部を深く貫いていた。命の灯が消えた後輩を腕に抱き、嗚咽を漏らす。
 姿を視認してから射れば良かった。そう後悔したところで、時間は巻き戻らない。


——後日。私は軍に潜伏していたスパイを抹殺したとして、勲章を授与され、特注の機功弓を贈呈された。

最終更新日時: 2023/11/01 20:00

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