研究者はいつも研究に夢中だった。
興味の沸いた事はなんでも実現させた。
論文を発表する暇も惜しみ、独りだけでなんでも創り出した。
彼女にとって創り出すことだけに意味があり、量産や使用は全く頭になかった。
手始めに不老不死の薬を作り出した。
自分で飲み、何度致命傷の傷を受けようとも再生する体になった。
次に世界中どの地域のどの場所に飛ばそうとばれずに撮影、中継ができるカメラ付きの小型ヘリを作り出す。
その次は自分の知能をそのままもった機械、次は何が起きようと無傷でセキュリティも万全な自分だけのコロニー、
その次は頭で想像するだけでそのままのパーツを創り出す機械、その次は...
ひたすら開発しては満足して次へ、と繰り返すうちにあることに気づく。

世界が終わっていた

万全すぎたコロニーの中で不老不死として研究に没頭しすぎたあまり、外を見ることを忘れていた。
小型ヘリを飛ばすと、白で塗りつぶされた空間に原型のわからないなにかが宙を漂っている。
研究者は頭を抱えた。「このままでは私の研究したものを試すスペースがないじゃないか！」
彼女は天才だ。それゆえバカだ。
そしてなぜ世界は終わったのか？ということも知りたくなってきたので彼女はあっという間に｛リピテーション｝を開発。
世界が終わる前にコロニーごとタイムリープする装置。（どうせなら、ともっと昔にもいけるようにはしてある）

世界の終わる数十年前の場所にいくと、もう既に地面がえぐれだし、あの白塗りの終わりの世界が見えだしていた。
そして、音[しんどう]が無いことに気づいた。他のものはまだなんとか残っている。なのに、音をはじめとした体に伝わるはずの揺れが全くない。
百年単位でタイムリープを繰返すと、昔になるにつれて音が戻っていった。人々の活気もそれに比例した。
一度終わりの世界に戻り、彼女はある結論に辿り着く。
音はなんらかの原因で消失。それにより世界のバランスが崩れだし、終わりを迎えた。
また新しくわかった事として、数世紀に一度音楽に携わる人々が突如失踪したり、音楽に携わり続けた人々の遺骨や遺品が消失する事件が起きていた。
そして彼女の研究により、失踪や消失が起きた後には必ず「音のカケラ」（命名した）が大量に発生していた事が判明。
その音のカケラからなんと生命体を作り出すことに成功したのだ。
いつもならここで満足するが、彼女は声高らかに伝わる事のない世界でこう宣言した。
「私が音のない世界に革命をおこそう！音を奪った神に抗おう！カケラを集め、[オーケストラ]を創り出す、それが次の研究だ！」

研究者　ソラ・ムーン・フィーネの手記より

---彼女はなぜ終わらないのか、その理由はコロニーでも薬でも無く、彼女がこの世界の住人ではなかったことにある。